留学記

山田英孝(フロリダ大学、精神科学教室)

私は現在、内村直尚・森田喜一郎両教授のご高配、及び九大生医研時代の恩師である中別府雄作教授のご尽力により、フロリダ州ゲインズビルにあるフロリダ大学精神科にてBruijnzeel博士のもと、博士研究員として薬物依存の研究に従事しております。

ここゲインズビル市はフロリダ半島の北部に位置する、人口10万人ほどの地方都市です。ディズニーランドやユニバーサルスタジオで知られるオーランドや昨年ワールドシリーズに進出したレイズの本拠地タンパから共に2時間ほどの距離にあります。ゲインズビル自体はフロリダ大学を中心に発展した日本で言うところの学園都市であり、約7万人が学生や教職員、その家族など大学関係者で占められているようです。土地柄中南米からの移民や留学生をよく見かけ、街はスペイン語があふれていますが、アジア系では中国人と韓国人が多いようです。日本人は100家族ほどの完全なマイノリティだからでしょうか、皆で肩寄せ合い助け合いながら生活しています。私もこちらに来た当初は偶然知り合った日本人の方々に相当助けていただきました。

フロリダ大学自体は日本では馴染みがないと思いますが、こちらではUC BerkeleyやUCLAと並ぶ有力な州立大学と位置づけられています。また、フロリダ大学のスポーツチームはこの辺りに野生のワニが多く生息することからGatorsとの愛称で呼ばれており、全米の大学スポーツの中でも屈指の人気を誇っています。特にフットボールの人気は凄まじく、生理学の教授が彼らのためにわざわざ栄養ドリンクを開発したほどです。Gatorade(gator+adeの合成語)と名付けられたこの飲料はスポーツドリンクの草分け的な存在で、一時期日本でも至る所で売られていましたので、ある世代以上の方々は耳にされたことがあるかもしれません。現在でも世界的にはスポーツドリンクのシェア1位だそうで、実際こちらではスーパーに行くと数種類のゲータレードが山積みにされています。余談ですが、この飲料の所有権を巡って開発者と販売会社、フロリダ大学との間で裁判が続き、和解後大学には1億ドル以上のロイヤリティが支払われているとのことです。

最初に書いたとおり私の所属は精神科ですが、普段はMcKnight Brain Instituteという研究機関で働いています。イメージとしては脳研を大規模にした感じで、精神科の他、脳外科や神経内科など神経系を専門とする科がそれぞれのフロアに研究室を構えています。建物の大きさは久留米大学の臨床研究棟程度で、上階に動物センターが併設されているためアクセスが非常に便利です。精神科の研究分野は薬物依存が中心で、その中でも私の所属するラボでは主にニコチン依存の形成と再発メカニズムについての研究を行っています。ニコチンはもちろんニコチン型アセチルコリン受容体に作用する神経伝達物質の1つですが、依存形成や中断後の再発にはコカインやモルヒネ、アルコールなど他の薬物依存と共通のメカニズムが存在することが人や動物の研究で明らかにされており、私の研究テーマもその流れに沿ったものです。まだまだ始めたばかりで失敗も多く、どれ程の結果を残せるかは分かりませんが、実験結果についてラボ内外の仲間と議論したり、情報交換したりすることは臨床とはまた別の充実感があります。

薬物依存の動物実験は依存形成のため薬物を数週間連続投与するなど過密なスケジュールで実験を進める必要があります。そのため、「Bruijnzeelラボはもって最大2年」と周囲からは同情を込めてささやかれています。実際こちらに来て最初の3ヶ月間は休日返上で働いていましたが、その後適当にサボることを覚えてからは少し余裕が出来て、キーウエストやニューヨークなどへ旅行にも行けました。また、フロリダ州は南部ではありますが、いわゆる"deep south"とは異なり警戒していた人種差別も今のところ全く意識することなく過ごせています。逆に周囲の人間はみな陽気で世話好きなため、英語が全くだめな私を気遣いカバーしてくれます。今のところ環境には不満がありませんので、今後は何とか本職の研究で成果を上げなければと思っています。

末筆になりましたが、今回の留学に際し同門会や脳研、生化学研究室の先生方やスタッフの方々には多大なご支援を頂きました。この場を借りて、深く感謝申し上げます。

ラボの仲間と食事会にて

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大江美佐里(チューリッヒ大学、精神科学教室)

「マクドナルドのポテトは,100%スイス産です」との広告がアパート近くの路面電車停留所にありました。ご丁寧にポテトがスイスの国の形をしています。スイスのマクドナルドでコーヒーを注文すると,チョコレートが一切れついてきました。このように,マクドナルドも国によってだいぶ雰囲気が違うようです。

さて,出発前に「スイスに留学します」というと,多くの方がアルプスの少女ハイジのイメージで応じてくださいました。チューリヒはスイスの中で最大の都市ですが,首都ではありません(首都はベルン)。大都市でありながらきれいな湖と山並みを眺めることができ,中世都市としての見所もたくさんあります。そして,電車で20分ほどいくと,確かにハイジのイメージ通り,「山小屋,草原,牛」を見ることができます。

こちら(チューリヒ大学医学部の精神科)に来ることになったきっかけは,平成20年4月,福岡で開催された日本トラウマティックストレス学会です。招待講演でシュニーダー教授がおいでになりました。前田正治先生から,「これまで何回か来日されているが,とてもいい先生らしいから,留学させてもらえるかもしれない」というお話をうかがったのでした。もちろん全く面識はありません。そこで,日本での滞在案内(事前のメールでのお手伝い)と学会後の観光案内係をかってでました。運がいいことに教授ご夫妻は,学会直後は疲れているから遠出をしたくない,とおっしゃいましたので,近場である別府を案内することにしました。この観光案内を通じて,留学のお願いをし,許可を頂きました。

ところが,留学には条件が1つありました。それはドイツ語を学ぶことです。スイスは4つの公用語(スイスドイツ語,フランス語,イタリア語,ロマンス語)がある国で,地域によって言語が違います。チューリヒはスイスドイツ語圏です。スイスドイツ語というのはドイツ語の方言のようなものなので,ドイツ語を学んでから学ぶ必要があります。ということで日本にいるときから少し準備をしていました。ですが,こちらにきて語学学校のテストを受けると,「文法はいいけど,しゃべる方はそれに比べてよくないね」といかにも日本人が言われそうなお言葉を頂きました。教授との約束で,こちらの同僚や上司の方々もみなさん「英語なし(当然みなさん英語はしゃべれますし,論文も英語で書かれています)」で会話してもらえるという,スパルタ的な環境に身を置いています。8ヶ月後の現在でもしどろもどろのままですが,電話で簡単な用件を尋ねること,専門分野の会話,そしてメールはなんとかドイツ語でやれるようになりました。一番の難敵はお昼ご飯のフリートーキングで,これはまだ聴き取れません。

こちらでは,いくつかの研究プロジェクトにかかわり,研究計画の立案と研究助成金の獲得,倫理委員会への書類準備,結果の解析を行いました。私は,精神科医としてPTSD患者の回復因子の探索というテーマに最も興味を持っています。こちらでは,計画の段階で,結果があればもう論文ができあがるほど完成度の高い計画書を作成しています。ですから,総説を数本書いたのではないかと思うほどの量の書類と格闘しました。今後は,あるホルモンの精神生理学的反応を,健康な被験者を対象に行う予定です。

言葉の問題で臨床には携わっていませんが,カンファランスで外来患者さんを招いて面接とディスカッションを行うことがあり,ここで面接の様子を見学することができます。
プライベートでも,趣味のホルンでは知的障害施設での演奏や教会コンサートの出演,そして何故か5km走への参加など,非常に充実した生活を送っています。

今回の留学に際しましては,内村教授をはじめ医局の先輩方,後輩のみなさま,そして同門の先生方からも有形無形のご援助や励ましを頂き,大変感謝しております。この場を借りて御礼申し上げます。


寮から見た街並み

現在のスタッフ
マクドナルドの広告
睡眠検査室(同様の部屋が2室あります。)
ハイキングで見かけた牛

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